遺品整理業界の「市場規模」は、実は数字が一つに定まりにくい分野です。理由は単純で、遺品整理という言葉が指す範囲が広いからです。家の片付け一式に加えて、特殊清掃、残置物撤去、買取・リユース、清掃・消臭、空き家管理、不動産整理、デジタル遺品対応などが一体提供されることも多く、どこまでを「遺品整理市場」に含めるかで推計が大きく変わります。
2. 市場規模がブレる「定義」の違い
市場規模を読むときは、まず定義を分けて考えるのがコツです。代表的には次の2つに分かれます。
- 狭義:遺品整理の作業(仕分け・搬出・処分手配など)を中心に、周辺サービスを限定して集計する
- 広義:特殊清掃やゴミ屋敷清掃、残置物撤去、買取・リユース、空き家関連の片付け等を含めて「周辺領域も一体」で見積もる
狭義は数字が小さく見えやすい一方で、比較がしやすいメリットがあります。広義は現場実態に近い反面、事業者や媒体ごとの推計方法が混ざり、数字の幅が出やすくなります。
3. 代表的な推計レンジ
狭義の遺品整理(周辺を絞った見方)では、民間調査の引用として「2012年から2017年にかけて市場が大きく伸びた」という形で紹介されることがあります。これらは、遺品整理というサービスが一般化し、外注ニーズが可視化された時期と重なります。
一方、広義(特殊清掃・片付け・買取など周辺を含む)で見ると、「数千億円規模」といった推計が語られることがあり、媒体によっては「約5,000億円規模」「2030年に7,500億円規模」といった見立ても見られます。ただし、このレンジは定義が広く、根拠の置き方も様々なので、単一の数字を鵜呑みにせず、定義と前提を確認するのが重要です。
4. 成長を押し上げる主要ドライバー
今後の需要増を支える要因は複数ありますが、現場感として特に大きいのは次の3つです。
- 高齢単身世帯の増加:家族だけで整理しきれないケースが増え、外注が選択肢になりやすい
- 空き家の増加:相続後に住まいが空き家化し、売却・解体・管理の前工程として片付け需要が発生しやすい
- サービスの複合化:遺品整理+買取+供養+清掃+不動産整理など、ワンストップ化で単価が上がりやすい
とくに空き家は、単に件数が増えるだけでなく、長期放置による傷み・臭い・害虫などが絡むと作業難易度が上がり、特殊清掃やリフォーム前提の案件が増えることがあります。その結果、周辺領域も含めた市場が膨らみやすくなります。
5. 今後の成長予測の考え方
成長予測は、一般に「件数×平均単価」で考えると整理しやすいです。件数が増える要因(高齢化、単身化、空き家)に加え、平均単価を押し上げる要因(大型化、遠方相続、特殊清掃、買取・リユース連携)が同時に進むと、緩やかでも継続的に市場が伸びる見通しになります。
6. 3つのシナリオで見る2030年前後の見通し
ここでは「数字の当てもの」ではなく、現実的な読み筋としてシナリオを置きます。前提は、狭義・広義の定義が混在しやすい点を踏まえ、市場の伸び方に焦点を当てます。
- 保守シナリオ:価格競争が強まり単価が伸びにくいが、件数は増えるため、緩やかに拡大
- 標準シナリオ:ワンストップ化が進み単価が底上げされ、需要増と合わせて安定成長
- 強気シナリオ:空き家関連(片付け+管理+売却支援)とリユース連携が強まり、周辺領域を含めた市場が大きく伸びる
媒体ベースの推計で「2030年に7,500億円規模」といった数字が見られるのは、おおむね標準〜強気寄りの前提(周辺領域込み、単価上振れ)を置いていると考えると理解しやすいです。
7. 伸びる領域と事業者側の変化
今後、伸びが見込まれやすいのは「遺品整理単体」よりも、周辺を含めた複合サービスです。具体的には次のような領域が拡大しやすいです。
- 買取・リユース併設:処分費の圧縮と顧客満足の両立がしやすい
- デジタル遺品対応:スマホ・PC・サブスク・金融口座などの整理支援
- 空き家の片付け+管理:定期巡回、通風、草刈り、簡易清掃など継続収益化しやすい
- 品質の見える化:見積の透明化、供養の証明、写真報告、保険加入などが選ばれる理由になる
市場が拡大すると同時に、トラブル回避のための説明責任も重視されます。今後は「安さ」だけでなく、「説明の丁寧さ」「追加料金の出にくさ」「買取の適正さ」「個人情報の扱い」など、信頼の要素が競争力になっていくでしょう。
8. まとめ
遺品整理業界の市場規模は、狭義か広義かで数字が大きく変わります。近年は高齢化・単身化・空き家増加といった構造要因に加え、ワンストップ化で単価も動きやすく、全体としては拡大基調と見られます。成長予測を見るときは、提示された数字そのものよりも、定義(何を含むか)と前提(件数と単価の見立て)を確認することが大切です。定義を揃えて読むだけで、業界の「本当の伸び方」が見えやすくなります。
